本当の豊かな暮らしとはなんなのか──そんな命題に、パソナ農援隊代表取締役の田中康輔はこう答えた。
「日常的に自然の恵みを享受できる淡路島で、海を見ながら仕事をしたり、畑で野菜や土に触れたりしていると、心がものすごく良い状態で維持されます。五感が開いて、人としての機能が動き出す。生きている実感や勘が戻ってくる。人間はもともと自然の一構成員ですから、自然の中で生きることが本来心地いいのだと思います」
総合人材サービスの大手企業パソナグループが本社機能の一部を淡路島に移転することを発表したのは2020年9月のこと。以来、多くの社員が淡路島に移住し、サステナブルな暮らし方や働き方を実践している。社会課題の解決に貢献することを理念に掲げる同社は、2003年頃からいち早く農業分野の人材不足の課題に着手。日本各地で農業支援のプロジェクトを展開し、2011年にこの事業をパソナ農援隊として法人化した。関西都市圏からのアクセスも良い淡路島との関わりは2008年にまでさかのぼり、現在は大規模な農地を借り上げて、全国から募った志望者への農業研修や、修了生に対する淡路島周辺での独立就農支援を行なっている。
2021年10月にオープンした農家レストラン「陽 燦燦」では、目の前に広がる畑で採れた野菜をふんだんに使った食事が楽しめる。ここでは主菜は野菜で、肉や魚は副菜だ。
「この食事が体に合えば、日頃の食生活を少し“野菜食”に変えてみようかという気づきにつながるかもしれません」と田中は言う。
また、ハーブ類が自生しているこの島で和ハーブ協会と共にフィールドワーク・プログラムも開催し、「生活を豊かにするハーブ」の学びを大切にしている。淡路島で体験したことが、その時だけのものに終わらず、日常のウェルビーイングに活かされ、ライフスタイルの変革につながるよう意図されているのだ。
今後は、他企業や団体との連携をさらに活かし、自然素材と持続可能な暮らしのためのテクノロジーを取り入れた住環境を体感できる宿泊施設や、自然の力を活かす職人の知恵をものづくりや生活に役立てる研究所の開設も計画している。これらの複合的な取り組みで実現したいのは、地域雇用の創出や地域活性に留まらない、あらゆるものが域内で自然循環する「未来の豊かな暮らし方のプロトタイプ」だ。大量生産・大量消費で歪んでしまった社会構造を、企業と生活者の双方向から変革することで立て直す。農業を土台にした新たな暮らしづくりの試みが、淡路島を舞台に動き始めている。
※淡路島から直送された新鮮な玉ねぎと完熟イチジクを使った、初秋にふさわしい杉山のレシピはこちらから!
Special Thanks: Emi Sugiyama Text: Maiko Morita Editor: Mina Oba